【はじめに】

粉体の流動性を評価する指標として、「安息角」は広く用いられています。角度が大きいほど流れにく粉体の流動性を評価する指標として、「安息角」は広く用いられています。角度が大きいほど流れにくいという理解は一般的であり、装置設計や材料評価においても重要な指標の一つです。一方、実務の現場では次のような経験をされた方も多いかと思います。

  • 安息角は同程度なのに、崩れ方や安定性が大きく異なる
  • ホッパーでは詰まるのに、別の容器では問題なく流れる

これらの現象は、摩擦係数や粒子特性だけでは説明しきれないことが多く、「なぜこうなるのか分からないが、そういうものだ」として扱われることも少なくありません。このような状況において、単に角度の大小だけで粉体挙動を語ることには限界があります。

こうした現象を理解するためには、粉体の内部で何が起きているかを知る必要があります。しかし、内部構造の形成や力の伝わり方を実験で直接観察することは容易ではありません。本コラムでは、「どのように崩れるか」という崩れ方に着目し、粉体挙動を構造という観点から考えます。

【従来の理解】

安息角は主に摩擦係数や転がり抵抗といった粒子間相互作用によって説明されてきました。摩擦が大きければ粒子は滑りにくくなり、結果として安息角は大きくなります。この理解に基づけば、ある臨界角に達したときに表層から徐々に滑りが生じる、という連続的な崩壊像が想定されます。

しかし実際の粉体では、このような単純な挙動だけでは説明できない現象がしばしば観察されます。崩壊は突然起こり、しかも一様ではなく、部分的に進行することが多いです。こうした挙動の背景には、粉体内部の構造が深く関わっていると考えられます。では、その内部構造はどのように形成され、どのように破断するのでしょうか。以降では、離散要素法(DEM)を用いた解析によって可視化された知見をもとに、この問いに迫ります。

【シミュレーション条件 ― 単純な系での検証】

本検討では、球形粒子を用い、付着力を考慮せず、すべての粒子間で摩擦係数および転がり抵抗を一定とした条件でシミュレーションを行いました。モデルの切り替えや局所的な物性変化といった操作は一切行っていません。これは、「特殊なモデルを導入しなければ再現できない現象」ではなく、「単純な条件のもとでも自然に現れる挙動」であることを示すためです。以降で示す崩壊挙動や構造形成は、パラメータの作り込みによる産物ではなく、粉体が本質的に持つ構造的な性質として捉えることができます。

【シミュレーション結果ー層としての崩壊】

側壁を持つ容器内の安息角の結果を以下に示します。

静的安息角(57度)

動的安息角(35度)

静的安息角は57度という非常に高い値を示し、小さな山では安定した状態が維持されます。しかし、山がある程度以上の大きさになると、その安定は保たれず、山は突然崩壊します。この崩壊は連続的な変形ではなく、明確な不連続性を伴って発生します。崩壊後、粉体はより低い角度で再配置され、動的安息角は35度となります。このとき、静的安息角と動的安息角の差、すなわちヒステリシス角は約22度に達します。

詳細に観察すると、崩壊は山全体で一様に起こるのではなく、内部に形成された滑り面に沿って進行していることが分かります。具体的には、一定の厚みを持つ層が、その滑り面に沿って一体となって崩れ落ちるように振る舞います。すべての粒子が運動するわけではなく、崩壊後も一部の領域は静止したまま残ります。このことから、粉体内部には運動する領域と静止する領域が共存していることが示唆されます。

【シミュレーション結果ー境界条件の影響】

興味深いことに、同一の粒子特性および相互作用条件であっても、境界条件を変えることで崩壊挙動が大きく変化することが確認されました。平板上に形成された粉体の山の場合、静的安息角は53度、動的安息角は40度となりました。一方で、側壁を持つ容器内に形成された山では、静的安息角はより大きく、崩壊後の動的安息角はより小さくなります。すなわち、同じパラメータを設定していても、境界条件によって安定性と崩壊後の挙動の双方が変化します。

この違いは、ヒステリシスの観点から見るとさらに明確になります。側壁が存在する場合には、崩壊前後で角度の差が大きくなり、非連続的な挙動が顕著に現れます。一方で、平板上ではその差が比較的小さく、より緩やかな挙動を示します。

このような違いは、実務の現場でもよく知られています。

  • 同じ粉体であっても、ホッパー形状によって流れたり詰まったりする
  • 容器の径や高さが変わるだけで、排出挙動が大きく変化する
  • 壁面の影響によって、想定以上に安定な状態が形成される

これらは経験的には理解されているものの、その理由が体系的に説明されることは多くありません。本検討で観察された現象は、これらの実務的な経験とよく対応しています。

平板上では、粉体は横方向に自由に変形できるため、内部の応力が局所的に集中せず、分散しやすくなります。その結果、強い力伝達構造が形成されにくく、構造全体としての拘束力は弱くなります。このため、側壁がある場合と比べて相対的に低い角度で崩壊が生じます。また、大規模な構造崩壊には至りにくく、粒子の再配置も限定的にとどまるため、崩壊後も比較的急勾配が維持され、動的安息角は高い値となります。

一方、側壁が存在する場合は、横方向の変形が拘束されるため、応力が内部に集中しやすくなります。その結果、粒子間の接触ネットワークによって形成される自己支持的なアーチ構造や、強い力伝達経路が発達し、より高い角度まで安定な状態が保たれます。しかし、いったんその構造が破断すると、支えていた力のネットワークが崩れ、粒子の大規模な再配置が生じます。これにより、崩壊後の角度は大きく低下します。

このことは、境界条件が単なる外的な設定ではなく、粉体の内部構造そのものを規定する要因であることを示しています。同じ材料であっても異なる挙動が現れる場合、その差は材料特性だけではなく、境界条件によって形成される構造の違いに起因しています。

【メカニズムー構造の破断としての崩壊】

本検討で観察された非連続な崩壊挙動は、粉体内部に形成される「構造」によって説明されます。粉体は単なる粒子の集合ではなく、力を伝達するネットワーク、すなわち骨格構造を形成します。この構造は均一ではなく、局所的に強い拘束を持つ領域と、比較的弱い領域が共存しています。崩壊は、この構造の中で特定の領域が破断することによって引き起こされます。その結果、崩壊は粒子単位の滑りではなく、「面」や「層」として現れます。

力の伝達ネットワークの例

ここで重要なのは、構造が単なる結果ではなく、現象を決定する要因であるという点です。この視点に立つと、安息角の意味も大きく変わります。従来は摩擦の結果としての角度と捉えられていましたが、本検討では、安息角は構造の安定性を反映した結果と考えることができます。同様に、崩壊も単なる滑りではなく、構造の破断として理解されます。すなわち、粉体挙動の本質は粒子そのものではなく、それらが形成する構造にあります。このような内部構造の形成過程は、離散要素法(DEM)による解析によって初めて可視化されたものです。実験では捉えにくい粒子レベルの挙動を、DEMは個々の粒子の運動と力として直接追うことができます。

【工学的価値】

従来の粉体評価では、安息角やかさ密度といった「見かけの指標」を基準に、材料特性や操作条件を調整することが一般的でした。しかし、対象とする現象が変わるたびに評価指標や調整対象も変わり、その結果として理解や設計の一貫性が失われることが少なくありません。

本検討で示したように、粉体挙動が内部構造によって支配されるのであれば、問題の捉え方そのものが変わります。すなわち、粉体を「どのように流れるか」という結果で見るのではなく、「どのような構造が形成されているか」という状態で捉えることが重要になります。

この視点に立つと、摩擦係数や転がり抵抗といったパラメータは単なる調整量ではなく、「どのような構造を形成するか」を規定する物理量として意味を持ちます。そして現象は、その構造がどのように維持され、どこで破断するかによって決定されます。

この考え方は、ホッパー内の閉塞、圧縮成形における欠陥発生、粉体層の安定性評価など、さまざまな工学的課題に直接つながります。重要なのは、「どの条件で流れるか」を追いかけることではなく、「どのような構造が形成され、その構造がどのように変化するか」を理解することです。粉体を構造状態として捉えることにより、現象の理解だけでなく、設計や品質評価における判断の基準をより本質的なものへと移行することが可能になります。こうした構造状態を定量的に把握し、設計に活かすための手段として、DEMは有効なアプローチの一つです。

【おわりに】

安息角は粉体内部の構造状態を反映しています。そして崩壊とは、粒子の運動ではなく、構造の破断として捉えることができます。粉体挙動を理解するためには、「どの角度で崩れるか」ではなく、「どの構造が崩れるか」という視点が重要になります。構造は結果ではなく、原因です。この視点の転換が、粉体工学における理解と実務の双方に、新しい可能性をもたらすと考えています。本コラムで示したような挙動は、従来の延長では捉えにくい領域ですが、粉体を構造として扱うことで、自然に現れる現象でもあります。

本コラムで示したような挙動は、従来の実験的手法だけでは捉えにくい領域です。粉体内部の力伝達経路や滑り面の形成過程は、外部から直接観察することができないためです。こうした内部構造を可視化する手段として、離散要素法(DEM)が有効です。DEMでは、個々の粒子の運動と粒子間の力を逐次計算するため、構造の形成・維持・破断という一連のプロセスを直接追うことができます。「なぜここで詰まるのか」「なぜ条件を変えると急に流れるのか」——こうした問いに、構造という観点から答えを与えることが可能になります。

弊社のDEMは、粒子間相互作用に独自のモデルを採用しており、構造に起因する挙動を特別なパラメータ調整なしに再現できる点に特徴があります。粉体挙動を構造として捉えることにご関心をお持ちの方は、ぜひ一度お試しください。

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