磁性粉体圧縮成形

強磁性粒子の圧縮成形における磁場配向シミュレーション概要
次世代の高効率モーターを支えるのが、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石といった高性能な希土類永久磁石材料です。これらの材料は、高いエネルギー積や保磁力、残留磁化といった磁気特性が求められ、特に磁気モーメントの配向性が、最終的な磁石性能を大きく左右します。
この“磁気モーメントの向き”を制御するために、製造プロセスでは圧縮成形中に磁場を印加する磁場配向技術が利用されています。例えば、1~3テスラの磁場をかけながら粒子を成形することで、粒子の磁化軸を所望の方向に揃え、高い配向度を持つ磁石を得ることができます。これは、モーターの小型化や高効率化、省エネルギー化に直結する重要なプロセスです。
しかし、粒子レベルで何が起きているのかを可視化・定量化するのは容易ではありません。ここで注目されているのが、粒子シミュレーション技術(Discrete Element Method: DEM)です。DEMを用いれば、粒子間の接触や摩擦、回転運動、さらには磁場から受けるトルクといった現象を微視的に再現・解析できます。これにより、成形プロセス中の粒子配向のメカニズムを理解し、最適な製造条件の設計につなげることが可能になります。
対象業務者
- モーター設計者及び生産技術者
- 粉体材料技術者
課題
従来のDEM技術を圧縮成形における磁場配向検討に適用すると、以下の課題が生じます。
- 磁気トルクが過剰になり、現実的な挙動が再現できない
- ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石などの高性能磁石材料では、強磁場(1~3T)をかけると粒子に非常に大きな磁気トルクが作用します。
- このトルクが粒子間の摩擦や回転抵抗よりも圧倒的に大きくなると、粒子が実際以上に回転し、過剰に整列する現象が数値的に発生します。
- その結果、すべりなし接触や部分的配向といった実際の挙動が再現できず、非現実的な配向が予測される可能性があります。
- 磁気モーメント相互作用の非線形性による不安定
- 強磁場下では、粒子同士の磁気モーメントが強く相互作用し、複雑なトルクや力を及ぼし合います。
- この相互作用は非線形で、粒子の回転運動を不安定にさせる要因となります。
- とくに、磁場と粒子姿勢のわずかな変化でトルクが急変するため、数値シミュレーションでも回転挙動が発散しやすくなります。
ソリューション
上記の課題に対応するため、当社では、磁性粉体に特化した高速かつ安定な計算アルゴリズムを開発しました。加えて、安定化された回転抵抗モデルや、磁化のヒステリシス特性を考慮した物理モデルを導入することで、より現実的な磁場配向シミュレーションを可能にしました。
当社で開発した技術の有効性を検証するため、以下のシミュレーションを実施しました。
- ネオジム磁石粉体の金型充填解析(磁場なし)
- 充填後に一様な強磁場を印加し、粒子構造の配向・成長挙動を解析
- その後、圧密を行い、圧縮過程における磁場配向の変化を解析
- 磁化曲線
DEMによる配向シミュレーションに先立ち、ネオジム磁石粒子の磁化挙動を正確に再現するために、磁化モデルのパラメータ調整を行いました。その結果をFig. 1に示します(点:実験データ[1]、実線:磁化モデルによる再現曲線)。これより、モデルが実験の磁化曲線を良好に再現していることが確認できます。

Fig. 1 ネオジム磁石粒子の磁化曲線とパラメータフィッティング
- 強磁場中のネオジム磁石粒子の構造
オジム粒子を金型に充填した後、一様磁場を印加した場合のシミュレーション結果をFig. 2に示します。ここでは、接触している粒子同士を、それぞれの重心を結ぶ線分で可視化することにより、粒子の配向状態が直感的に把握しやすくなっています。この結果から、ネオジム磁石粉体に強磁場(3T)を印加すると、粒子が磁場方向に沿って整列し、軸状の構造が形成されることが確認されました。


(a) 磁場印加前の粒子構造
(b) 磁場印加直後の粒子構造
Fig. 2 粒子構造(接触粒子を粒子の重心間の線分として示しています)
- 配向度の時間推移
外部磁場(3T)を印加した状態における圧密時の配向度の推移の結果をFig. 3に示します。なお、本解析では、磁場は1.00秒から印加され、圧密は1.01秒から開始されています。解析結果より、以下の傾向が確認されました。
- 圧密開始直後に、粒子が磁場に応答して回転し、配向度が最大値に達することが確認されました
- その後、圧密が進行して大きなひずみが加わるにつれて、粒子間の拘束が増し、配向度が低下する傾向が得られました
一様磁場中でネオジム磁石粒子を圧密すると、粒子は転動・回転を伴いながら再配置され、それに応じて磁気モーメントの方向も変化します。これらの結果から、当社で開発したシミュレーション技術により、大きな磁気モーメントを持つ粒子の磁場中での配向挙動を、圧密過程も含めて安定的かつ現実的に再現できることが確認されました。

Fig. 3 圧密における磁場配向の時間推移
まとめ
当社では、磁場配向を高精度かつ高速に解析可能な独自アルゴリズムを開発しました。これにより、ネオジム磁石粒子のような高磁気異方性材料に対しても、強磁場(数テスラ)下での粒子挙動を安定的かつ現実的にシミュレーションできることを確認しています。
本技術は、モーター用磁石をはじめとする高性能磁性材料のプロセス設計や配向最適化の指針として、今後の産業応用にも大きく貢献するものと期待されます。
参考文献
[1] Z. Qu, Q. Wu, et al., “The effect of powder shape on the magnetic anisotropy in NdFeB bonded magnets”, AIP Advances 14, 025201 (2024).
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